八丁味噌

八丁味噌騒動というのが続いていましてな…。

その話の前に、名古屋人でも勘違いしたりうろ覚えだったりする味噌のお話。

名古屋メシという頭の悪そうな名前が付いてしまった料理に味噌は欠かせないんだけど、使われるのは豆味噌。煮込んでも風味が飛ばないので、味噌カツとかどてが成り立つんだけど、色が赤いので一般的には赤味噌とも言われる。(豆味噌=赤味噌ではないけど)

赤だし味噌というのは、豆味噌と米味噌を合わせた味噌で、所謂赤だしの味噌汁を作るのに最適化された商品の名前。

八丁味噌は豆味噌の中のブランド(和牛の中の松阪牛みたいなもん)で、旨いけど高いので、庶民が日常使いするようなものではない。スーパーなんかに行ってみるとわかるんだけど、純粋な豆味噌ってあまり売っていなくて、ほとんどが赤だし味噌なんだよ。知っている人ほど、「八丁味噌なんて、特別なものに使うかプロが使うもの。」という感覚だと思う。

これを踏まえて、問題になっているのは八丁味噌ブランドについて。元々八丁味噌は、岡崎城から西に八丁の所で作っていたからその名前がある。一丁目とかの丁(ちょう・町とも書く)は距離の単位で約109mだから1キロ弱くらい。名古屋で言うと伏見から栄くらいの距離だから割と近いな。

それで江戸時代からここで味噌を造ってきたのが「まるや」と「カクキュー」の2社。木樽に石を積み上げ、2年以上熟成させる独特な製法を今に受け継いでいる。

2017年の年末に農水省の地理的表示(GI)に八丁味噌が登録されたんだけど、登録生産者団体と公示されているのは愛知県味噌溜醤油工業協同組合。別に怪しげな団体というわけじゃなく、名古屋人にはお馴染みの「ナカモ」や「イチビキ」も加入している団体なんだけど、上記2社は含まれていない。(正確に言うと、すでに離脱した。)

要は八丁味噌とは『岡崎で昔ながらの製法で造る味噌』という定義の2社と、『愛知県で作った豆味噌』とかなり範囲を広げた組合の定義の違いが問題となっていたにもかかわらず、組合側の方が農水省に認められてしまったというもの。岡崎2社にしてみれば、ステンレスのタンクで短期で作った物を八丁味噌と言われてはかなわないだろうし、組合側からすれば、一般的な認識では豆味噌=八丁味噌なのに、生産量の少ない2社が他社の参入を拒んでいるのはおかしいという理屈だろう。

まあまともな名古屋人なら(私は京都生まれだけど)八丁味噌は岡崎のものだし、組合の方向性は、まがい物でブランドを毀損させる行為だと考えると思う。事実、この騒動から1年以上経っているが、法律的にはOKになったにもかかわらず、組合のメーカから「八丁味噌」という名前の製品は出ていない。

また岡崎2社が八丁味噌を名乗れなくなるわけではないんだけど、例えば「まるや」と「カクキュー」の八丁味噌を使った煮込みが、八丁味噌を使用とは言えなくなってしまうのだよ。本来であれば高価で希少なブランド味噌を使っているのに、まがい物を使わないと八丁味噌煮込みと名乗れなくなるんだ。

まあ組合には勇気を持って取り下げて岡崎2社と和解して欲しいと思うんだけど、難しいんだろうなあ。

今日買ってきたんだけど、あまり多くはないものの、八丁味噌ではない豆味噌も売られている。

このメーカ(野田味噌)は昔ながらの製法だけど、石積みが「まるや」と「カクキュー」とは違うし、熟成時間も若干短いし、豊田で作られている。なので八丁味噌とは名乗っていない。(ホムペではこっそり愛知の豆味噌・八丁味噌とか書いてあるけど。)

具無しの味噌汁作ってみたけど、ちゃんと旨い。別に八丁味噌を名乗らなくても、旨けりゃ客は付くから、あまり西洋のマーケティングに毒されなくてもいいと思うんだけどね−。

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